今日の宿題はCDの会話を聞きながらおこなう。何度もくり返し聞いてこたえをさがす。
教育制度に関する権限の大部分が各州に委ねられ、公立校の授業内容も地域の要望を反映する、個性的なドイツ。各州が日本の小学校にあたる基礎学校での外国語履修導入を本格的に徹底し始めたのは2003年ごろからだ。
履修言語は英語のみの州が約半数、英語とフランス語が半数、なかにはさらにイタリア語、ロシア語の選択も可能という州もある。歴史上フランスと深い関係にあるザールラント州ではフランス語が第1外国語だったり、北ドイツのデンマーク国境ではデンマーク語を学んでいたりする。
外国語の授業が開始されるのは大部分の州で基礎学校の3年生からだが、1年生からという州もある。平均的な授業数は週2時間(90分)だ。
実際に英語の授業がどのようにおこなわれているか、北ドイツ、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州の学校を見てみよう。授業は1クラス(約25名)をドイツ人の英語専任教師がひとりで担当する。基礎学校段階での英語学習の目標は、「外国語学習への関心を高める」「国際理解や異文化コミュニケーションを体験する」などのため、「聞く」「話す」能力を身につけることを重視しており、「読む」「書く」練習は児童の能力にあわせておこなっている。授業では、文法などの説明はせず、教師ははじめから英語で質問や指示をする。“How old are you?”“Please turn on the light.”などを英語で言われた児童ははじめこそ戸惑うが、教師がジェスチャーをまじえ、何度もゆっくりくり返すと、自力でこたえに達する。
基礎学校の英語教育で重要なのは、年齢の低い児童が、楽しみながら学べる環境づくりだ。教師も授業にあきさせない工夫をしている。ある授業では、教師はマスコットを使い腹話術さながら、自分はドイツ語で話し、マスコットに英語で話させて、子どもたちに会話を聞かせていた。
授業に教科書を使わない教師もいる。用意したプリントを、児童が切り、並べ、ノートにはり付け、色をぬって仕上げたノートを最終的に自分の教科書にする。また、各児童に会話のCDを配り宿題として聞かせ、ネイティブ・スピーカーの発音にたくさんふれさせる例もある。こうして、3年生のはじめはかんたんな身のまわりの単語を学んでいたのが、学期が変わるころには「〜が見えます」「〜を買いました」などの会話の理解へと移行していく。
ドイツのほとんどの地域で英語は主要教科(その成績が基礎学校修了後の進路決定に影響する教科)ではないので、成績評価も厳しくないのが現状だ。しかし、その後の進学先によっては英語の授業内容も早い時期から専門的になり、第2外国語の授業も始まることから今後、基礎学校でも英語がますます重要な教科になっていくと見られている。
文・写真/ツムトーベル由起江 コーディネーション/ホリコミュニケーション
●『子ども英語』2010年2月号(アルク発行)連載「世界の小学校英語教育事情」より
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