英語の専用教室。1クラスは20人程度で、子どもたちとの距離も近い。
子どもたちに親しみやすい教材を使って授業は進められる。
イタリアで小学校の英語教育が義務化され始めたのは1991年ごろから。州によって異なるものの、1995〜1996年にはイタリア全土で実施されるようになった。
英語の授業は、小学校初年度の6歳では週1時間、7歳では週2時間、8〜10歳は週3時間実施されている。以前はフランス語やスペイン語などを選択できたが、現在は中学生からのみ選択が可能で、小学生には統一して英語の教育がおこなわれている。
しかしあたり前のように多言語が飛び交うヨーロッパでは、イタリアの小学校での英語教育は恵まれた環境とはいいがたい。その理由のひとつに、ベテランの先生たちは長年、フランス語やスペイン語を教えてきたため、英語を教えられる先生が少ないことがあげられる。英語を教えるにはそのためのカリキュラムを学ぶ必要があるため、主に英語を教えているのは、若い女性の先生だ。
また移民大国であるイタリアでは、生まれる子どもの3人にひとりは、移民家庭の子どもだ。そのため世界的な共通言語の英語より、現地のイタリア語を優先させて学ばせたいという保護者の要望もあり、小学生の時期から本格的に英語を学ぼうという意識が薄いようだ。
それでも学校の先生たちは、英語の授業を明るく、子どもたちが親しみやすい内容で展開しようとしている。
授業は英語専用の教室に移動しておこなわれる。壁にはられたポスターや教材などは各学校、各先生が選んだものを使用。授業では、季節の行事など、子どもたちの生活に密着したものから例をあげて、少しずつ英語に慣れるように進められる。また歌やなぞなぞなどを用いて、楽しく子どもたちに英語を言わせようとするなど、先生たちは工夫した授業を心掛けている。もともと子どもたちは外国語を話すことには慣れているため、授業は会話表現を中心に進められる。
イタリア政府は英語教育を推し進めているものの、国内での英語の普及はあまり容易ではないようだ。諸外国と近く、商業都市が集中する北イタリアでは英語を話せる人の割合は高いものの、南側では英語はそれほど必要性がないため浸透していない。また英語のテレビ番組や映画も、すべてイタリア語に吹きかえられているため、人々が英語にふれる機会も限られてしまう。
小学校では今年から、日本語と中国語の選択授業の導入も検討されているという。イタリアではそのときどきの世界情勢にあわせて教育制度を変えざるを得ないところがあり、それは先生たちの悩みの種でもある。またそのため、外国語習得のための教育は一貫性に乏しい。それでも、若い先生たちが、少しずつ子どもたちに英語の浸透を進めているようだ。
文・写真/佐武辰之佑 コーディネーション/ホリコミュニケーション
●『子ども英語』2010年3月号(アルク発行)連載「世界の小学校英語教育事情」より
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