小学3年生の英語の教室。英語のときだけ特別教室へ移動して学ぶ。中央はアレハンドラ先生。
アルゼンチンの英語教育は過渡期にある。23の州ごとに教育省が存在し、その構造は複雑だが、今後は社会全体で英語の需要が増すだろうとの認識が高まっており、各地で小学校の英語必修化が次々と発表されている。ブエノスアイレス連邦首都長は2008年に、翌年度からすべての市立小学校で1年生から英語教育を導入することを決定。ブエノスアイレス州知事は2010年、州立小学校に4年生から英語を導入すると宣言した。
しかしながら、政治家の発表=「すぐに実現されること」ではない。公約が守られないこともしばしばだが、通常はそれをめざして段階的におこなっていくことになる。小学校英語教育が必修化されていても、まだ大学の小学校英語教員課程が存在しない州もある。教員不足はどの州も共通して抱える課題だ。
ブエノスアイレス市の英語教育は段階的におこなわれているモデルといえる。同市では1982年から小学校に英語教育が導入されたが、当時は一部の外国語学校でのみの導入だった。のちに1991年から「生きた言語校」に制定された14校で、クラスの半数が英語、もう半数がフランス語を週5時間履修するという教育が始まった。そのなかの数校は複数言語校として、小学4年生から外国語を学習し始め、さらに週3時間、英語が第一外国語の子はフランス語かドイツ語を、フランス語が第一外国語の子は、英語かドイツ語を学習する。
2009年、小学1年生からの英語教育を始めたのは、教育大学付属小学校の9校。1日1時間、週5回の授業が設けられている。2010年現在、そのほかの一般の公立校では、小学4年生から週4時間教えられている。
小学校は7年制。「生きた言語校」では、卒業時に英語の新聞記事、物語、詩や歌、レポートなどのテキストを読解し、基本的な口頭表現、自己紹介、日常の描写などの会話ができるようになっているのが目標とされている。授業ではCD、DVD、電子黒板なども使用する。
教師歴18年のアレハンドラ先生は、「指導していてうれしいのは、おとなになった生徒に再会したときに、英語の授業が楽しみだったと言ってもらえること。スキルの習得よりも、英語に対して積極的な姿勢を持ってくれることが重要」。そう先生が話す通り、英語の授業では絵を描いたり歌ったり、英語圏の国の文化や習慣を知ったりと、楽しく外国語に親しむ活動がおこなわれている。書くことは中学年から。それまでは聞いて反応できることが重視される。テストもあり、問題もすべて英語だ。
そして、中等・高等教育でもさらに英語を学んできたアルゼンチンの20代〜30代のおとなは、日常会話には困らない程度の基礎英語力を身につけている。
文・写真/相川知子 コーディネーション/ホリコミュニケーション
●『子ども英語』2010年11月号(アルク発行)連載「世界の小学校英語教育事情」より
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