のどかな離島の公立小学校
公立小学校の授業風景
7,109の島々から成る群島国家、フィリピン。マレー系民族が人口の大部分を占めるが、中国系、スペイン系のほか少数民族も多い。島や地域、民族ごとに現地語があり、フィリピンには80前後の言語が存在する。
公用語であるフィリピノ語は、タガログ語を標準化した言語だ。フィリピン人は母語として出身地の現地語、国語としてフィリピノ語、さらに第一外国語として英語を話す。出身地の違うフィリピン人どうしが話す場合は、フィリピノ語よりも英語を使うことが多く、英語は多民族、多文化をつなぐ役割を担っている。また、国内に仕事が不足しているためフィリピン政府は出稼ぎを奨励しており、国民の10人にひとりが海外で働いている。アメリカやカナダ、イギリスなどの、より賃金の高い英語圏の国で働くには、英語が話せることが大前提となる。
フィリピンの教育制度は、初等教育6年、中等教育4年、高等教育4年の6・4・4制。1946年まで、約50年ものあいだアメリカの植民地であったフィリピンでは、アメリカが導入した教育制度にのっとって、国語と社会はフィリピノ語で、それ以外の教科は英語で教えられてきた。しかし、ことばの問題から授業についていけない児童が多く、4人にひとりが不登校に陥っていた。その問題を解決すべく、2009年7月から英語の授業も含めた全教科において、小学校2年生までは現地語で授業をおこない、3年生からフィリピノ語と英語を段階的に取り入れるよう方針を転換した。
小学校の約90パーセントは公立で、公立・私立ともに全学年で週5日、毎日1時間の英語の授業がおこなわれている。英語が公用語であるフィリピンでは、映画もテレビも新聞も英語。日常的に接する機会が多く、素地がすでにできているため、小学1年生の終わりには読み書きは日本の中学3年生程度、会話は高校生以上の能力を身につけている。教員はフィリピン人。小学校から文法を学び、高学年にもなると分厚い教科書でかなりの文章量を読みこなす。義務教育の小学校を卒業するまでには英語を話せるようにし、英語圏の国に出られるようにするのが国の方針だ。
私立校に通わなければ、第二外国語は大学から始まる。それまでは第一外国語として、公用語である英語を徹底的にたたき込まれる。フィリピンで暮らすにしても、海外で働くにしても、フィリピン人にとって英語は必要不可欠なのである。ただし、地域間での教育の質の格差など、多くの課題を抱えてもいる。とくに都市部の人口密集地域では、教師、校舎、教材などが足りておらず、1クラスが50人以上であったり、朝昼晩の3交代で授業をおこなったりする学校もある。
文・写真/片岡恭子 コーディネーション/ホリコミュニケーション
●『子ども英語』2011年3月号(アルク発行)連載「世界の小学校英語教育事情」より
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